二度目の挑戦
  
      
第15回アジア競技大会ドーハ2006
 
 

                  社団法人日本ボディビル連盟
ABBF帯同審判員
JBBF審査委員会委員長
 中 尾 尚 志

 ボディビル競技が、2004年にアジア大会の正式種目として認められ、初めてオリンピック種目と肩を並べることが出来るようになった時の心の底から湧き上がってきた感動は、今でも記憶に新しい。
 一度目のチームJBBFの挑戦は何から何まで初めてで、直前の一年間があっという間に過ぎ去った。 数度の監督会議や合宿を経て日本選手団の結団式に出席したわけだが、その席上でボディビルチームが紹介される番になり、やっとここまで来たのだという気持ちと、少しの好奇な目でみられたことへのテレとが複雑に絡み合って緊張してしまったことが思い出される。
 前回の釜山アジア大会は、チームJBBFの監督だったが、今回はJBBFから任命されたアジアボディビル連盟の帯同審判員として参加した。
 ボディビルのアジア大会二度目の参加ともなると、ボディビル競技そのものに対する見方も前回より当然厳しいものになることは予想された。 この先も大会参加を継続してゆくためには、徹底したアンチドーピングと競技の公正性を高めることが責務となる。 これに対してアジアボディビル連盟は、事前にドーピングテストを行ったり、エントリーの際にドーピングテストの陰性証明書の添付を義務付けたりしてきたが、今回は、新たに審判団の研修会をひらいたのである。

 7月末にタイのバンコックで開催されたアジアボディビル連盟による審査員研修会は、一泊だけの、研修会終了後に開催されたフェアウェルパーティーを途中退席して空港に向かい、日本クラス別選手権大会当日の早朝に成田に着いてその足で会場に入るという慌しいものであった。 研修会の内容は特別新しいものではなく、IFBBのジャッジとして当然知っておかなければならないことの再確認で、中でもジャッジとしてのモラルに重点がおかれたものであった。 短い滞在時間ではあったが、アジアボディビル連盟独特の家庭的ななかにも厳しい雰囲気に包まれた研修会は、意義深いものであったとおもわれる。
 審査員研修会の内容では特に最近の国際大会に則したものが主で、1クラスが15名以上の場合は15名以外の選手を除く予備審査があり、次いで予選審査で15名全員に順位をつけ、予選順位のトップ5の選手が決勝審査に望むというものである。 決勝審査は、フリーポーズと7つの規定ポーズによる徹底した比較審査で順位が決定される。 したがって予選の点は、決勝審査に合計されることはない。 この決勝審査のシステムこそが、今後の国際大会に臨むために重要な課題となることが後になって思い知らされた。
 競技は12月8日9日の両日に行われ、実際に新しい国際ルールによって審査が進んでくると、トップ5による決勝審査にいかに重点がおかれているかがよくわかる。 予選審査の15名の順位づけは、ほとんどトップ5を選出するためだけにあるようにさえおもわれた。 その結果上位5・6名の選手以外は、審査員の目にあまり止まらないことになってしまう。したがって、選手はいかに目立たなければならないかということに尽きるのである。 そこで、この目立つという観点から今大会の日本人選手について少し述べてみることにする。
 今回のアジア大会にはJOCの厳しい決定により4名だけの出場となった。 70kg級に須江選手と近藤選手が、75kg級には谷野選手そして、80kg級には相川選手が出場している。 4選手は全員国内では文句なしにトップクラスであり、また、常にその仕上がり具合にそれぞれの特徴を出してきたと言える。 フレームよりは筋肉の質感と厳しさにこそ魅力を感じさせる谷野選手と近藤選手。 バランスのとれたフレームに筋量がマッチした仕上がり具合の須江選手と相川選手。前者の二選手は、国際大会ではどちらかというと細身に入るかもしれない。 一方後者の二選手は、フレーム的には外国の選手と較べてもそんなに劣っているとは思わない。 ところが、この大会ではそれぞれの特徴が有利・不利に働いてしまったようだ。
 谷野選手と近藤選手は、舞台に表れた瞬間からその厳しい仕上がりに審査員の目が引きつけられ、再三の比較に呼び出された。 結果的に近藤選手は4位、谷野選手は2位のシルバーメダルに輝いたのである。 一方須江選手と相川選手はと言えば、審査員の目を引き付ける何かに欠けているようにおもわれた。 ここで目立つと目立たない差が出てしまったのである。 目立たなければ上位5名の対象としては見てもらえず、当然比較される機会が少なくなり、本来持っている良さも解ってもらえない。 その何かが何であるか、大会翌日に相川選手とも話したのだけれど、やはり筋肉の質感にあるのではないか。 厳しい仕上がりを表現するのには見た目の厳しさが必要である。 東アジアのビルダーに概ね言えることだが、皮膚感にどこかスムースさを感じさせる。美しさは絶対必要であるが、その反面厳しさに欠けては筋量豊富な他の外国選手とは勝負にならない。 今後国際大会で競うには、厳しい質感が要求されるだろうし、そして、身長に対しては2クラス上の筋量が必要であろうとさえ思われた。
 こんな課題を残してのドーハアジア大会であったが、大会自体はとにかくレベルが高く、見ごたえのあるものであった。 重量級の試合を観ていた谷野選手の口からおもわず出たのは、「これは世界大会のレベルだよ」と。 それもそのはず、先の世界選手権で優勝した選手が四人も出ていたのである。 私が審査をした90kg級のアリ(クエート)こそ文句なしの優勝だったが、他の三名はベスト5のなかで特別余裕があったわけではなく、65kg級のサザリ(マレーシア)にいたっては結果二位であった。 80kg級のシャロエンリス(タイ)、85kg級のカマル(クエート)も何とか勝つには勝ったが、現世界チャンピオンが苦戦するくらい凄いものであったことをお伝えしておこう。